制度概要
教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度については、国税庁のパンフレットを参照していただきたいと思いますが、簡単にまとめると以下のようになります。
- 平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、
- 30歳未満の子や孫等の教育資金として、
- その直系尊属(曾祖父母・祖父母・父母等)が一括して贈与した金銭等について、
- 信託銀行・銀行・証券会社等の金融機関との間で契約を締結し、口座開設等した場合、
- 子や孫等(受贈者)1人につき1,500万円(塾・習い事など学校以外は500万円)までは、
- 贈与税を課さないこととする。
さて、これだけでは色々疑問がでてくると思いますので、疑問を解消していきましょう!
教育資金の範囲
これは、書き出したらきりがありません。文部科学省のQ&Aを参考にしてください。
少しまとめると…
学校等のグループ
- 幼稚園、小・中学校、高等学校、大学等の学校名が記載された領収書があれば、ほぼ教育費となります。修学旅行・遠足費や施設設備費、PTA会費であっても学校等からの領収書があれば対象となります。
- 外国の学校でも一定のものは認められますが、留学の渡航費や滞在費は認められません。
- ただし、学校の指示の下で、業者から購入した場合には、1,500万円までの非課税対象とはならず、次の塾・習い事等と同じく500万円までの非課税対象にしかなりません。さらに、この場合は、業者からの領収書に加え、学校等からの文書(この業者から○○を買いなさいという内容)が必要となります。
- 振込手数料は、教育費といえないので含まれません。
- 通学定期代も、学校へ直接払うものでないので含まれません。
- 奨学金の返還金は、非課税の対象となりません。
塾・習い事等のグループ
- 塾・習い事等の場合は、社会通念上相当と認められるものに限り、500万円を限度に教育資金となります。
- 物品については、指導を行う者を通じて購入するものでなければなりません。つまり、指導を行う者の名で領収書が出るものに限られますから、塾で使う参考書等を一般書店で購入しても非課税対象とはなりません。
領収書について
この制度を利用するに際して、領収書が重要な要素となっています。
では、領収書をもらう際、注意しておく点を羅列します。
- 支払日付は必ず記入する
- 支払先の氏名・名称及び住所。学校名か指導者名か業者名かを確認。
- 支払者の氏名(宛名)。子や孫など受贈者本人にしておくのが無難です。親名義の場合は、普通預金の口座から教育資金が引き落とされている旨やクレジットカード明細等が必要となってしまいます
- 摘要欄(但し書欄)は、具体的に記載する。「一式」「等」や「お品代として」とは書かないようにしましょう。
まったく要約になっていない気がしてきましたので、この辺でやめます。
上記の文部科学省の資料に記載されていますから…
(開始)手続き
教育資金の一括贈与の非課税制度の手続きは、全て金融機関で行います。税務署へ行く必要はありませんし、税理士が代行するものでもありません。
この規定の適用を受けるためには、金融機関で教育資金管理契約を結べばいいだけで、金融機関によって方法が少し異なるだけです。
また、この規定の適用を受ける人(財産を受け取った人=子や孫)は、税務署へ「教育資金非課税申告書」を提出する必要がありますが、申告書の提出は金融機関を通して行われるため、本人が直接税務署へ行く必要はありません。
金融機関に行けば全てやってくれるのです!
口座からの払出、教育資金の支払手続き
開設した口座からの払出については、予め①立替払、②それ以外の方法のいずれかを選択しなければなりません。意味が分かりませんね…
①立替払は、先に教育費を支払い(立替)→1年以内に領収書等を金融機関に持参→開設した口座から払出(引出)。という運用を行います。もちろん、1年分の領収書をまとめて持参しても大丈夫です。
一方、②それ以外の方法とは、教育費を先に口座から払出(引出)→領収書等を後で金融機関に持参する方法等を指します。
個人的には、①の方法をとった方が良いかと思います。②の方法で、領収書等をなくしてしまった場合など、面倒くさそうですから…
(終了)手続き
金融機関と教育資金管理契約を締結したとしても、無限に続くわけではありません。開設した口座にも終了時期が定められています。
- 贈与を受ける子や孫等が30歳になった場合
- 残高がゼロになり合意解約した場合
- 子や孫等が死亡した場合
そして、終了時点で残額がある場合、その残額については、終了した年の贈与税として課税されますが、上記3の場合は、残額があっても贈与税は課税されません。
(少し専門的ですが)税理士の注目ポイント
贈与者が死亡したら、相続税?
贈与をした日から教育資金管理契約終了の日までの間に、贈与者が死亡した場合には、相続人等への教育資金の一括非課税贈与が、相続開始前3年以内のものであっても相続財産への加算の対象としません。遺産には含めないと言うことです。
ただし、上記1.の場合のように受贈者が30歳に達した場合に、使い残しの部分の金額については、「贈与者(被相続人)」から贈与があったものとみなして贈与税が課されます。そのため、受贈者が30歳に達した日以後3年以内に贈与者が亡くなった場合には、生前贈与加算の対象となります。(相続時精算課税適用者については、精算課税による贈与として相続財産に加算されます。)
また、法令は、「30歳到達時の口座残高」ではなく、「非課税拠出額」から「教育資金支出額」を差し引いた額について贈与税が課税されると規定しています。これは、教育資金以外の目的で口座から引き出した場合や、教育資金に支出したが領収書等を提出しなかった場合などについては、口座の残高がゼロであったとしても、贈与税を課税するということだと思います。が、裏を返せば、教育資金以外に利用しても30歳まで贈与税は課税されないということなのでしょうか?
30歳になっても残高が残っていたら?
贈与者が死亡後に受贈者が30歳に達した場合、被相続人からの贈与ではなく、「個人」(架空の他人)からの贈与を受けたものとみなすこととしています。
そのため、受贈者が相続時精算課税適用者であっても、特定贈与者(被相続人)からの贈与とはならないことから、教育資金の使い残し分については、一般の暦年贈与として課税されることとなります。
そうすると、残額が110万円以下であれば贈与税の基礎控除内ですので、無税になります。
教育資金を預けている期間の運用益は?
教育資金を、開設した口座内で運用することも考えられます。
口座内の運用により譲渡益・利子・配当などが発生したときは、その譲渡益・利子・配当などについては通常通り所得税等が課税されますが、贈与税はかかりません。
細かいことですが、銀行や証券会社に口座を開設した場合は、口座名義が子や孫等になっていますので、子や孫に所得税等。信託会社に口座を開設した場合は、口座名義が贈与者(祖父・祖母等)になりますので、贈与者に所得税等が課税されるのでしょうか?
直系尊属なので…
「教育資金の非課税」の特例の適用を受けるためには、直系尊属から贈与(信託の場合はみなし贈与)を受ける必要があります。
直系尊属は、受贈者の父母、祖父母及び曽祖父母ですから、民法第727条に規定する養子縁組による親族関係がある場合を除き、受贈者の配偶者(子や孫等の配偶者)の直系尊属は含まれません。
暦年贈与等との併用は可能?
教育資金の一括贈与の非課税制度を使うからといって、暦年贈与や相続時精算課税が使えなくなるわけではありません。併用可能なのです。
そうすると、暦年課税と併用して、1,500万円+110万円=1,610万円。相続時精算課税と併用して、1,500万円+2,500万円=4,000万円まで非課税で資金を移動できることになります。
これまでとの違いは何?
可愛い孫のために!ともらっていた教育資金。
今までは、贈与税等を脱税していたのでしょうか?
そんな訳ありません。
基礎控除(110万円)の範囲内であれば問題がないのは当たり前ですが、“直系血族の扶養義務”が民法887条に規定されていますから、ある程度までは当然のように非課税で大丈夫だったのです。
では、一括贈与の特例は無意味なのでしょうか?
それも誤った考え方です。理由は簡単です。
いつまでも生きているわけではありませんから…
その他
- 子や孫等の受贈者1人につき1,500万円ですから、祖父から1,500万円+祖母から1,500万円=合計3,000万円 という計算にはなりません。
- 複数の金融機関・営業所へのお預け入れはできません。1口座のみです!
税理士の呟き
役所や政府の言い分は、
家計資産の約6割が60歳以上の世代が保有している
→この家計資産を早期に若い世代へ移動させる
→経済を活性化させる
というものです。
一方、メディア等は、「金持ち優遇制度」だと言っています。
私としては、どちらも正しい気がします。しかし、相続時精算課税制度があるのでは?それを拡充すればよかったのでは?という疑問もあります。
税理士の中には「相続時清算課税制度は、役にも立たない」という人もいます。相続時精算課税を使うと、2,500万円の贈与税の非課税枠があり家計資産の移動という意味では効果があると思うのです。教育資金の1,500万円を目いっぱい使える人は、明らかに富裕層ですよね。一般庶民であれば、2,500万円+αの相続時精算課税だけで十分だったのではないでしょうか?
教育資金を孫に贈与する!というのは聞こえはいいですが、事実上、孫の父母(=自分の子)が負担すべき教育費を、孫へ贈与するという名目で、自分の子へ贈与しているだけです。言い換えれば、“孫のため”ではなく、“孫の親”を潤わせているのです。“孫の親”は、教育費の負担がなくなり、その分、お金を使うだろう→経済活性化につながる。という意味で役所や政府は正解!
1,500万円も孫にあげられるのは富裕層だけ、という意味でメディアも正解!普通の人は、孫の教育資金を出すとしても、実際に必要になってからですから、(上述のように)この制度がなくても非課税です。
しかし、税理士として利用しない手はありません。例え、相続税が増税になったとしても、この制度を利用することによって、かなりの節税ができます。
今年、孫が生まれたとして、その瞬間に1,500万円贈与します。30年に渡って課税されない資産の誕生です。相続税の基礎控除額が減額されようと、孫が3人もいれば…
だから、「金持ち優遇制度」といわれるんですね。
税理士の小言
ほとんどの信託銀行は、信託手数料無料です。
銀行がそんなに優しいわけはありません。
実際には、運用益から信託報酬を得ているだけです。
【関連法令等】
租税特別措置法第70条の2の2
租税特別措置法施行令第40条の4の3
租税特別措置法施行規則第23条の5の3
平成25年3月30日文部科学省告示第68号
平成25年3月30日文部科学省・厚生労働省告示第1号